醒睡
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未完了に揺らぐ瞬間をピン留めする魔法などどこにもないはずなのに、 この句集には、 数多の〈体験質〉たちが驚くべき解像度のまま封じ込められている。著者は、言葉の水路網を指先で測深し、それらをこまやかに梳き合わせ、そこにたまさか現れる時間の浅瀬に風花雪月の工芸をつぎつぎと生け捕っていく。切子のごときメカニカルな精緻さと和紙のごときたおやかな陰翳とが饗応する幻の庭。 既存の手法では決して計測できない質の洗練に、それでも固有の精密な測度があることを、 この句集は証し立てている。 ――平井靖史(本書帯文より) 『醒酔』自選五句 楸(ひさぎ)咲く現いづこも日に傷み ぼうたんに昼を退きゆく日影かな 孑孒のうしろへ横へ手水鉢 灼け駈けて舟虫の思惟ささ止まり むらさきの紋を振り飛ぶ秋の蝶
未完了に揺らぐ瞬間をピン留めする魔法などどこにもないはずなのに、 この句集には、
数多の〈体験質〉たちが驚くべき解像度のまま封じ込められている。著者は、言葉の水路網を指先で測深し、それらをこまやかに梳き合わせ、そこにたまさか現れる時間の浅瀬に風花雪月の工芸をつぎつぎと生け捕っていく。切子のごときメカニカルな精緻さと和紙のごときたおやかな陰翳とが饗応する幻の庭。 既存の手法では決して計測できない質の洗練に、それでも固有の精密な測度があることを、
この句集は証し立てている。
――平井靖史(本書帯文より)
『醒酔』自選五句
楸(ひさぎ)咲く現いづこも日に傷み
ぼうたんに昼を退きゆく日影かな
孑孒のうしろへ横へ手水鉢
灼け駈けて舟虫の思惟ささ止まり
むらさきの紋を振り飛ぶ秋の蝶